【海外留学報告】ロヨラ大学(アメリカ合衆国)

医学部医学科 黒滝 拓磨、渡邉 洋章
留学先:ロヨラ大学(アメリカ合衆国シカゴ市)
期間:2017年5月28日~6月23日
留学の種類:北海道大学医学部医学科(国際連携室主導)トライアル派遣
留学時の年次:6年次

トライアル派遣とは、これまで学生交流を行ったことのない海外の大学に、国際連携室の主導で試験的に学生を派遣するプログラムです。2017年、アメリカのロヨラ大学に、このトライアル派遣で2名の学生が留学し海外実習を行いました。

<報告者>

黒滝 拓磨 : TK 
渡邉 洋章 : HW

左:渡邉 浩章 右:黒滝 拓磨

1. ロヨラ大学について

TK 
ロヨラ大学はアメリカ、イリノイ州シカゴにある私立大学です。医学部はローマカトリックの大司教のSamuel Stritchにちなんで、Stritch School of Medicineという名前がついていますが、一般にはロヨラと呼ばれます。
ロヨラ大学は少し町から離れたところにあり、近くに地下鉄駅もないので、学生は車で通学していました。私立大学の病院ということで外装内装ともにとても綺麗でした。

2. 実習内容

TK

2週間:Colorectal Surgery (大腸直腸外科)
2週間:Emergency (救急科)

契約上、見学のみで診療には参加できず、初日に患者とは話せないことと術野には入れないことを説明されました。実習中は基本的に医学部3年生(日本の学部5年生に相当)と一緒にまわりました。

大腸直腸外科でのスケジュール

救急科

 

HW

2週間:General Internal Medicine(総合診療科)
2週間:Family Medicine(家庭医療科)

Loyolaはジェネラルな医療を重視する教育制度であり、M3ではFamily Medicine, Medicine, Neurology, Obstetrics-Gynecology, Pediatrics, Psychiatry, Surgeryにそれぞれ6週間ローテするようです。M4(6年生相当)はすでに卒業していたため、私はM3(5年生相当)のクラークシップにご一緒しました。M4はSub-internと言われ、インターン(卒後1年目)に近い形での診療参加型臨床実習をするようですが、M3でも十分インターンに近い感じでした。

アイルランド、エジプトなど世界中から医学生がLoyolaでクラークシップをしに来ていました。母国医学部卒業後は米国でレジデンシーを行いたい人もいて、とても熱心でした。彼らは現地学生と同じような実習をしていたようですが、私たちはShadowingという立場での実習だったのでEpicという電子カルテもアクセスできず、患者と接することも建前上は許されませんでした。とはいえ内科ではミーティング中に意見を訊かれたり、有意な身体所見を取らせてもらったり、問診したり、ある疾患について調べて来て発表するように求められたりしましたので、ずっと見ているということはなく、濃厚な時間を過ごせました。

 

…_〆(゚▽゚*) レポート HW

米国のクラークシップは、まさに診療参加型臨床実習の様相でした。例えば一般内科であれば、アテンディング(指導医)、レジデント(研修医)・インターン(研修医1年目)、医学生 M3/M4(医学部5/6年生)が一つのチームで働きます。学生も病棟の担当患者数名を各自でプレ回診をし、回診前に行うチームミーティングでは症例プレゼンテーテションを行います。SOAPの部分を細かくお作法に従ってプレゼンするのですが、Assessment and Planについても、その思考プロセスを明確にしつつプレゼンすることが求められていました。UpToDateをざっと見るだけではなく、具体的に論文を探して読み、「こういうスタディーがありまして〜」とエビデンスを提示することが求められます。アテンディングは、ラボデータをどう解釈するか、どうマネジメントしていくかをという思考プロセスを訊いてきます。輸液の種類や量・投与速度、薬剤の種類や投与量など、かなり細かく提示することが求められていました。もう今月で年度末とはいえ医学生でしかもM3でここまでできるのか、と私は衝撃を受けました。

また、米国医学生は、日本であれば初期臨床研修医がするような事務的業務も行います。患者から同意書をもらったり、他科にコンサルトの電話をしたりするなどしていました。手技に関しても、身体診察はもちろんのことPap Smear(子宮頸がん細胞診・パップテスト)、動脈採血、ワクチン接種など、日本では医学生がまずやらないようなことをM3から行っていました。経験のためにやってみるのではなく、一連の業務の中で他のスタッフと同じようにやっている印象でした。患者から健康に関する心配事、服用するお薬の副作用について、体重を減らしたいなど色々な相談を持ちかけられ、その都度医学生がアドバイス・患者教育を行なっていました。

米国医学生は、学部の頃から成績、履歴書、推薦書などを揃えるために絶え間ない努力をし、熾烈な選考を経てメディカル・スクールに入学しているようです。ロヨラにいる人たちもその例に漏れず、高校〜学部と努力を重ねて全米・世界的に有名な大学を卒業した方々が多かったです。そんな人たちがM1から勉強の日々を送り、卒後に希望するレジデンシープログラムに入るために必要な成績、履歴書、推薦書を揃えるべく、クラークシップをしています。日本の医学部のように部活をするという概念はなく、アルバイトはせずに年間数百万相当の学資ローンを借り、寝る間を惜しんで勉強・実習しています。ですから、アテンディングやレジデントから良い評価を得るために積極的に業務を担っています。総合内科の朝は06:00から始まるのですが、時には20:00まで病棟に残っている医学生も少なからずいました。

3. 実習の感想

TK 

ロヨラの医学生は知識や臨床能力において北大の医学生よりも圧倒的に優れており、日本の研修医に近いものがありました。アメリカの医師の独り立ちが速いのは、制度の面だけではなく、医師1年目からの能力が高いことがあるのではないかと思います。ロヨラの学生、研修医にはとても良い刺激を受けました。
アメリカの医学生は労働力として現場で活躍している一方、北大の5年生の臨床実習ではお客さん扱いで実際に仕事をすることはありませんでした。アメリカの教育システムを部活やバイトで忙しい日本の医学生に適応してもなかなか上手くいかないと思いますが、少しずつ変わっていけばいいなと思いました。

HW
百聞は一見に如かず、という有名なことわざがあります。米国に行ったからこそ米国医療・医学教育という異文化を学ぶことができましたし、そのあわせ鏡として自文化を問い直すことができました。このような比較思考の視座を得ることができることが留学の意義の一つであると再確認しました。
このような素晴らしい経験をできたのは多くの方々のご尽力のおかげです。貴重な機会をくださった北大医学部、北大医学部・国際連携室の皆様、現地でお世話になったLoyolaの病院関係者や医学生たち、同行した黒滝くん、そして家族に深謝いたします。

4. 留学に至るまでの準備

(学内審査により留学が決定後、留学に至るまでの工程)

A. 受入確定までの交渉と書類郵送までの流れ

HW
[2016年4月(1年2ヶ月前)]

Loyola大学から私たち2人に対して、診療科の希望問い合わせ(「1つの診療科を4週間」あるいは「2つの診療科を2週間ずつ」)がありました。
病院のウェブサイトをチェックし、私は総合診療科と家庭医療科の2つをLoyolaに伝えました。この時期にはM4はすでに卒業しており、またM3がローテーションしている診療科は少なく、M3が必須でローテーションしている2つの診療科を選んだことは結果的に良かったと思います。
Loyolaのカリキュラムは サイト(http://stritch.luc.edu/lumen/)から閲覧できます。

[2016年6月(12ヶ月前)]

Visiting Student Application (Shadowing)という書類を提出しました

[2016年7月(11ヶ月前)]

派遣期間が2017年5月29日(月)~6月23日(金)(4週間)と決まりました。

B. 航空券を含む公共交通機関と保険

TK 
成田シカゴ間の航空券は2017年1月にH.I.S.のサイトで購入しました。直行便で130,740円、加入した保険はH.I.S. web旅行保険で13,450円でした。トラブル回避のため、一緒に行った渡邉君と同じ航空券を購入しました。
現地では地下鉄駅で105ドルのバス地下鉄乗り放題の券(Ventra)を購入しました。ほぼ毎日バスを利用していたので元は取れたと思います。

HW
アメリカへのフライト時間は長いので、時差に慣れる余裕もなく、体力を消耗します。可能なら前後の選択実習をそれぞれ1日ずつ休んで3日間で移動すると良いかもしれません。

C. 宿泊場所の手配、現地の治安

TK 
最初はこちら側で家を探すことになっていたので、家具付きの家をインターネットで探していました。
3月にロヨラ大学側からいい家を見つけたとの連絡があり、そこに滞在することになりました。ロヨラ大学の医学部1年生3人でルームシェアしている部屋で、丁度ロヨラ大の1年生の夏休み期間で家を空けているので貸し出せるとのことでした。
場所は病院まで車で7分ほどのForest Parkという所です。Forest Parkは小さな街なのですが、偶然にも私が大学1年生の時に1か月間ホームステイをした街でした。治安が良く、雰囲気の良いレストランやバーがたくさんあります。家賃は一人当たり400ドルでした。広々とした家でそれぞれの部屋、机があり安すぎる位の値段でした。

D. ワクチン

TK 
ワクチンが一番大変でした。
麻疹、おたふく、風疹、水痘、HBVのワクチン接種の証明書と10年以内にTDAP(破傷風、ジフテリア、百日咳/現在日本ではやっていないので、4種混合ワクチンで代用)のワクチンを打っていることの証明書と結核のスクリーニング検査の結果(PPDでの2度の陰性、Quantiferon、Tspot、胸部X線のレポートのうちどれか一つ)を提出してください、というメールを渡米の前日にいただきました。
4種混合ワクチン接種と結核のスクリーニング検査は行っていなかったので、とても焦りました。札幌市の病院に片っ端から電話したのですが、急遽のことで、みつけられませんでした。小児科には在庫があるそうなのですが、小児用のワクチンなので大人には打てないという回答でした。4種混合ワクチンは日本では小児にしか打たないので、ワクチンを受けられる病院は限られるようです。
結局、東京へのフライトを一日前にずらして、渡米当日に東京の病院でなんとか済ませることができました。胸部エックス線は3000円、4種混合ワクチンは10260円でした。

HW
注意しなくてはならないのは、地方都市である札幌市内にはトラベルクリニックが充実していない、ということです。
東京都内や千葉県・成田空港付近であれば多数のトラベルクリニックがあり、必要事項を伝えればすぐ対応してくれます。しかし札幌市内は少なく、私が以前米国に留学した時に見つけたのは市立札幌病院だけでした。週に2回ほど感染症内科が渡航者診療を行っています。 留学のための予防接種英文証明書作成なども対応してくれますので、相談しても良いかもしれません。
なお私は使わなかったのですが、北大病院で病院実習前にB型肝炎ワクチン接種と合わせて検査した抗体検査証明書を使うという手もあります。それをもとにもし足りない項目があれば市立札幌病院など外部医療施設で用意するのが良いかもしれません。
ただし結核に関してはLoyolaでの実習最終日から逆算して1年未満のものが必要です。毎年北大が行っている定期健康診断の胸部X線写真は、1年前のものでは無効になり、その年度のものはおそらく間に合わないでしょう。ゆえに、各自で用意する必要があるかもしれません。

E. ビザ

TK 
ビザの発行の流れはオンライン上でDS-160を作り、面接予約をし、会場で書類を提出し、いくつかの質問に答えることで発行されます。
札幌では面接の日程が月に数回しかなく、東京で面接を受けにいくことになりました。
DS-160の作成は入力する項目が多く、初めての申請だと時間がかかると思います。必要書類が揃い次第、すぐにビザを取得するようにするといいと思います。

5. 英語について

TK 
英語はある程度できるつもりでしたが、病院では何を言ってるか分からないことが多々あり、正直辛かったです。手術中はマスクで声がこもって音量も下がるので集中を切らすと一瞬で何について話しているのかすら分からなくなっていました。アメリカ人でも初めて聞くアクセントの英語を話す人がいて、解説していただいても何を言っているのか全く分からないこともありました。白衣を着ていると現地の医学生だと思われて、看護師さんに早口で~持ってきて等頼み事をされることが何度かありました。合ってるのかなと思いつつ恐る恐る頼まれたことをやっていました。
ロヨラでは医師が頻繁に学生を試す質問をするのですが、英語で聞かれる分反応が遅れるのか、知っているはずなのにその一瞬だけ答えを忘れてしまったり、答えようとしても他の学生が反射的に答えたりと悔しい思いをしていました。

次年度からアメリカの病院に留学に行く方へのアドバイスになりますが、英語力があればあるほど、ディスカッションに積極的に加わって、より多くのことを学べるはずです。英語ネイティブしかいない臨床の場での英語は普段聞く英語よりも速く、難しいです。このことを意識して、現状の英語力に満足せずに勉強してほしいと思います。最低限、言いたいことをすぐに言える位の英語力と医学英語は必須です。