医学部医学科 千葉 馨
留学先:ザンビア大学(ザンビア)
実習期間:2019年7月1日~7月12日(2週間)
留学の種類:北海道大学医学部医学科(医学教育・国際交流推進センター主導)トライアル派遣
留学時の年次:6年次
1. 私がザンビアでの実習を希望した理由
私は将来、世界の医療過疎地域でプライマリケア、感染症、公衆衛生の分野で、臨床医や行政官として医療に貢献したいという志があります。その志の下、将来的に自分の働くフィールドの一つになるであろうアフリカで臨床実習を経験することは、私が北大で臨床実習を開始して以来抱いていた希望でした。今回アフリカ南部に位置するザンビアという国のUniversity of Zambia(UNZA)と北海道大学が大学間協定を結んでおり他学部では交流が盛んなこと、現地に北大オフィスが存在することを知り、わずかな可能性に期待してUNZA北大オフィスにコンタクトを取ったのが始まりでした。
2. 実習開始までの事務手続き
留学に至るまでの事務手続きについてまとめます。次年度以降の派遣では詳細が変更されることも考えられますので、あくまで参考として読んでいただければと思います。
A. 実習の申込登録・確定までの流れ
北大とザンビア大学は大学間協定を結んでおり獣医学部などが盛んに交流しています。医学部間の交流はこれまでなく、今回は北大医学部から初の学生派遣でした。今回UNZAでの臨床実習を希望するにあたり、私たちはまずUNZAの北大オフィスに連絡し、UNZAのUniversity Teaching Hospital(UTH)で臨床実習することは可能か打診しました。その結果、UNZA北大オフィスの方がUNZA医学部オフィスと北大医学部International Relations Officeを繋いでいただき、実習時期の調整などを経て、本実習が実現することになりました。
実習のための手続きとして、先方からメールで送られてきたフォームを記入し提出後、Confirmation Letterが送られてきました。その後、実習科の希望(内科、外科、産婦人科、小児科から1科/2週で選択)を伝えました。ただ、実習初日の集合場所、時間については連絡が無かったため、先に実習を開始していたもう一人の北大医学部の同級生を頼りに、朝にUTH内のDean’s officeに向かいました。実習開始の手続きを済ませ、次にInternal medicine officeを訪れ実習科を決定した後、実習科の先生に面会し配属決定の書類を渡し、実習が始まりました。
B. 実習場所と実習期間
ザンビア大学のUTHにて、感染症科を2週間回りました。内科はUnit1~5から成り、感染症科はUnit3に当たります。
C. 航空券
私の場合は、直前に英国で別の実習に参加していたため、英国からザンビアに移動しました。利用便の詳細は以下の通りです。(時間はすべて現地時間)
出発:エミレーツ航空2019/6/29(土) 21:15 英国/マンチェスター国際空港
到着:2019/6/30(日) 7:25 UAE/ドバイ国際空港
出発:エミレーツ航空 2019/6/30(日) 9:25 UAE/ドバイ国際空港
到着:2019/6/30(日) 14:35 ザンビア/ルサカ国際空港
D. 宿泊場所
UNZAがelective生に対して宿泊施設の紹介を行っていない旨の連絡を受け、今回の実習手続きで最初からお世話になったUNZAの北大オフィスに連絡させていただき、病院にアクセスしやすく、安全性の高い宿泊施設を紹介していただきました。
- 宿泊先名:Longacres Lodge
- 住所:Los Angeles Road Longacres, 10101 ルサカ, ザンビア
- 宿泊費
同じく派遣された学生とツインルームを共有し、2週間で一人2100クワチャ(2019年7月のレートで約18,000円)でした。この宿にはUNZA獣医学部関係者が滞在していたことがあり、今回はUNZA北大オフィスの方に値段交渉、予約をしていただきました。正規価格ではツインルーム400クワチャ/室/日でした。
• 宿泊施設の詳細
部屋にはベッドの他に机、椅子、クローゼット(ハンガー付き)、TV、洗面台、トイレ、バスタブ(シャワーは無いため、置いてあるバケツと桶で代用しました。温水は部屋や時間帯によって出たり出なかったりと不安定でした)、wifiあり(受付から近い部屋でないと電波が届かないかもしれません。回線速度は十分速く、動画ストリーミングが問題なくできる程度でした)、朝食付き(コーヒー、ティー、ジュース、パン、ジャム)、ランドリーサービス(朝頼めば同日の午後に返却されるようです。値段は靴下、パンツは5クワチャ/個、それ以外は10クワチャ/個。白衣やシャツなどはアイロンまでかけてくれてとてもきれいになりました)も利用できます。
ただ、病院周辺で安く部屋を借りていた他の留学生の話を聞くと、私たちの滞在した宿泊施設は必ずしも最善の選択ではなかったように思います。来年以降に派遣される学生の皆さんは、自分たちでインターネットで宿泊場所を探してみても良いかもしれません。
• 病院へのアクセス
宿の前のroundaboutから街の中心地方向に延びる道路を歩いてすぐのところにバス停があり、少なくとも朝7:30~8:00の時間帯には頻繁にUTH行きのバスが通っていました。バスには行先が書かれていませんが、バスのお兄さんに「Hospital」と伝えれば乗るべきバスを教えてくれました。運賃は5クワチャ~10クワチャ(正規価格は5クワチャのようでしたが、時々それ以上の運賃を要求されました。)、基本的に車内が満席になってから出発し、UTHまで約5分でした。
他、宿周辺には、道路を挟んだ向かいに小さめのスーパーが2店、宿の裏側(宿を出て道路沿いを右に進み、見えてくる道を右に曲がり、壁に「JUDO」と書かれた建物の手前を右折し進むとあります。夜は道が暗く人の往来が乏しいので注意してください。)には中華料理店が多く集まる施設(JCS)がありました。私たちはほぼ毎日ここに通いました。
E. ワクチン、健康保険
ザンビア入国やUTHでの実習において、ワクチン接種歴の提出や追加接種の必要はありませんでした。保険は海外旅行保険に加入しました。
F. ビザ
私たちは観光ビザでの実習が可能でした。ザンビア到着時、ザンビアとジンバブエ両方を訪問可能なKAZAビザを50USDで取得しました(入国審査時に取得可能、クレジットカード支払い可)。
ただし、UNZA側が学生ビザ等の取得を要求することなども考えられることから、次年度以降の留学生は各自で情報確認、先方への問い合わせを行うのがよいと思います。
3. 実習内容
感染症科では当直日とその翌日以外、だいたい朝8時半から昼前まで病棟回診があり、elective生含む学生たちは回診前に各自担当患者(指導医に患者を当てられることもあれば、自主的に診たい患者を選んでいる学生もいました)のところに行き、病床の前に置いてある紙カルテのチェック、患者や家族からの病歴聴取、患者の問診や身体診察を行い、何かあれば適宜指導医に報告したり、回診時のプレゼンテーション(強制ではないが、自主的に担当している学生もいました)に備えて準備をしたりしていました。
私もHIV感染と腎障害のある患者や多発性骨髄腫の患者のベッドに赴き、カルテで現症や病歴、現在行われている治療を確認し、患者本人や付き添いの保護者への質問、バイタルサインの確認や心音・呼吸音の聴診を行いました。回診では指導医クラスの先生1人と学生6、7人からなる小グループが10~15人の担当患者に関して、学生によるプレゼン、指導医による問診・身体診察、カルテ記載(指導医が述べる内容を学生がカルテに記入することが多かった)、処置(胸腔穿刺など)という流れで進みました。
私の見た症例はHIV/AIDSとそれに関連するHIV-associated nephropathyやImmune reconstitution inflammatory syndrome、薬剤耐性結核、マラリア、髄膜炎、栄養失調、貧血、慢性腎不全などがあり、日本では見られないような重症感染症のclinical presentationや抗生剤の投与方法と副作用を中心に学びました。回診中は指導医からの質問に学生が答えたり、学生からの質問を受けて指導医が適宜ミニレクチャー(必ずしも感染症についてではなく、循環器や内分泌のトピックも多かったです)を開いたりと、一方向の教育ではなく学生のニーズに応じた双方向の指導が際立ち、私もその場では処理しきれないほどの学びやclinical questionを抱えながら、3時間以上にもわたる回診を毎日経験しました。
回診後は各自病棟に残って患者の検査・処置を手伝ったり、午後のレクチャーに参加したりと、割と自由な時間が多かったです。金曜日の昼の、1か月間など長期で回っているelective生(たいていルサカの他の医大や中国の医大から実習で来ているザンビアや他アフリカ諸国出身の学生)による症例発表に私も出席しましたが、病歴・身体所見からどんな鑑別診断を考慮すべきか、検査結果を受けてどのように確定診断を下すべきかについての感染症科のトップに近い先生からの質問や指導は、日本での実習ではまず見ないほど厳しいものであり、現地では特に最終学年生は現場で戦力となるくらいの知識、思考、判断が求められていると感じました。その場では現地学生に限らず私を含む他のelective生も質疑に参加できる雰囲気でした。
週に1回の当直日には、朝からemergency room(ER)に搬送されてくる患者の対応を医師と一緒に行ったり、指導医が患者の診療に当たっている場面に同席し質問に答えたりを翌朝4時まで行い、それから感染症科のトップの先生によるER内の患者の回診が行われました。ER内の患者は搬送時から自分が問診・身体診察を行って先生による処置を間近で見たり手伝ったりした患者やカルテを一読した患者が多く含まれていたので、だいたいの患者の病歴や診断、治療を知っている状態で回診に臨むことができ、事前に抱いていた疑問を指導医に質問することで、ただ回診に付いて回るだけでは得られない学びがあったと感じています。全科当直のため感染症以外の患者も含まれていたので、普段の病棟回診では見られない疾患にも触れる機会となりました。
実習全般を通して感じたこととして、学生が積極的に学んでいること、そして、私も何事にも自ら行動しなければならなかったことです。前述の通り、臨床のトレーニングを受けに遥々中国や他アフリカ諸国からやってきて座学で学んだことを実際の患者で実践したいと意気込んでいる学生が病院内にはたくさんいて、特に回診では彼らを押しのけて前線に行かないと先生との質疑に参加できない場面が多々ありました。また、感染症科では予定がきっちりと決められていないため自分でレクチャーやイベントを見つけて参加しなければならず、他の学生との繋がりも不可欠でした。これらを踏まえると、このザンビアでの臨床実習では、他のelectiveと比較して、特に積極性とコミュニケーション能力が求められると私は感じています。
4. 実習にかかった費用
① 交通費
• 航空運賃
英国→ザンビアの航空券を66,540円で購入しました。
• 現地での移動
生活圏である宿周辺は徒歩で、UTHへはバス(片道5~10クワチャ)を利用しました。ルサカ中心地やバスターミナルへもバス(UTH行きのバス停の手前から乗車)でアクセス可能です。少し離れたショッピングモールへはバスを乗り継いで行ったり、タクシー(宿前のガソリンスタンドで客引きしている、UTH周辺までは約50クワチャ)やUlendo(Uberのような配車アプリ、約50クワチャ~)を使ったりしました。
② 宿泊費
ツインルームを2人でシェアして一人2100クワチャ(2019年7月現在のレートで約18,000円)を現金で支払いました。先述の通り、UNZAの北大オフィスの方に値段交渉していただき、正規の値段よりも安く滞在することができました。
③ 生活費
まずザンビアではクレジットカードが使える場所が非常に限られており、現金支払いが主になります。現金を入手する方法として、両替(日本円が利用可能かは不明、米ドルは可能)やATM(デビットカード等を使い現地通貨を引き出せる。ATM手数料が約400円かかることが多い)が考えられます。私は空港到着時にデビットカードで現金を入手しました。
食事に関しては、UTH内のカフェテリアでは、N’shimaやチキンライスが20クワチャで食べられます。先述のJCSセンターの中華料理はだいたい40~50クワチャ/品でした。
スーパーでの買い物では、例えば2リットルの水が約10クワチャ、フルーツジュースが約15クワチャ、クッキーが約25クワチャでした。
5. 謝辞
この度のザンビア大学への初派遣に際して、成澤様、大門様はじめUNZA北大オフィスの方々には、私たちをUNZA医学部に繋いでいただいたり宿を手配してくださったりと、多大なるご協力を賜りました。改めて心から感謝を申し上げます。また、UNZAでの研究、取り組みを紹介してくださったり公私ともにザンビア滞在で面倒を見てくださった梶原先生をはじめ北大獣医学部の先生方、ご関係者様、そして、実習の実現にご協力いただいた北大医学部国際連携室の先生方にも、感謝致します。