【海外留学報告】トーマス・ジェファーソン大学(USA)

医学部医学科 増田 海平
留学先:トーマス・ジェファーソン大学(アメリカ)
期間:2017年3月27日~3月31日
留学の種類:米国財団法人 野口医学研究所
留学時の年次:5年次

野口医学研究所が主催する米国での臨床留学プログラムに応募し、5年次の終了時期である2017年3月、トーマス・ジェファーソン大学に留学しましたので、ご報告いたします。

1. 応募の動機
2. 留学先(トーマス・ジェファーソン大学)について
3. 実習内容
4. 応募書類と選考会について
5. 最後に

1. 応募の動機

このプログラムに応募しようと思った理由は、米国の医療システムや医療現場、医学教育を自分の目で見て体験してみたいと思ったからです。

日本は国民皆、保険、社会保障などの制度が充実しているため医療サービスへのAccessibilityに優れているという長所がありますが、米国の医療・医学に関しても日本とは異なる優れた点があるのではないか、と思っていました。

また、米国では日本に比べていわゆるジェネラル系(総合内科、家庭医療、感染症、ER、腫瘍内科など)の分野が進んでおり、実際にどのような雰囲気か、どのように機能しているのかを見てみたいと思いました。

2. 留学先(トーマス・ジェファーソン大学)について

トーマス・ジェファーソン⼤学は、アメリカのペンシルベニア州のフィラデルフィアに位置します。
ペンシルベニア州はアメリカ北部の東海岸にあります。

フィラデルフィア美術館は映画Rockyの舞台として有名です。
また、名物はチーズステーキです。オバマ前大統領も訪問したリーディングマーケットにあるとある店で、チーズステーキを堪能しました。

トーマス・ジェファーソン大学病院は、歴史溢れる古風な外観が魅力的です。
街全体比較的治安が良く、こじんまりした雰囲気です。

3. 実習内容

プログラム内容は、内科(病棟)、救急科、小児科(外来)、家庭医療科(外来)での実習、Dr. Wayne Bond LauやDr. Joseph F. Majdanのレクチャー、Simulation Centerでの実習、JeffHOPEへの参加等でした。どの実習も非常に有意義で、多くの貴重な経験をすることが出来ました。
以下は実習カリキュラムです。

・内科(病棟)
Internal medicine ではアテンディング1人、レジデント 2人、医学生(M4)で構成されたチームに参加させていただきました。

日本とは異なり、病院総合診療医、いわゆるHospitalistによる病棟管理が行われており、病院総合診療医が幅広い疾患をマネージメントしておりました。日本とは大幅に異なっている点でした。日本では見られない鎌状赤血球症なども経験でき、改めて米国に来たのだな、と実感することもありました。朝のカンファレンスでレジデントが医学生にインスリンの投与方法を丁寧に指導していた光景が非常に印象的でした。

ここでは、ホスピタリストが重要な役割を担っています。⽇本と⼤きく違っている点だと感じました。ホスピタリストとは、⼊院管理を専⾨にする⽐較的新しい専⾨科で、5万⼈以上のホスピタリストが病院で働いているとのことです。

・救急科
50床を超えるベッドがあるERで、各々のドクターが診察を同時並行で行っており、忙しそうでした。

日本でもcommonな脳卒中や虫垂炎といったものから精神疾患、脊髄損傷など幅広い疾患を見ることができました。

患者さんもいろいろな人がいて、英語の喋れない中国人も受診していました。このようなときには固定電話のような形をした翻訳機を使用した問診が行われており、非常に新鮮な光景でした。

・家庭医療科
家庭医療外来でも多くの経験ができました。

先生が仰っていた”We have to see the WHOLE PERSON.”という言葉が印象に残っています。患者さんの中には、“家庭医の先生と30年以上の付き合いです。”と言っていた方もいて、Doctor-Patient relationship(信頼関係)の構築が非常に大切であるなと実感しました。

患者さんも僕が自己紹介するとすごくフランクな反応をしてくださったので非常に楽しい実習となりました。

日本では立ち会うことのできなかった乳房の診察やPap smearなどを見学させていただき大変勉強になりました。

一般的には日本の大学病院ではプライマリケア医はおらず、大学病院に来る患者さんはすでに診断がついた患者がほとんどです。日本の大学病院では一般内科などの分野は採算が取れず赤字の原因となるため排斥される傾向にありますが、Jeffersonではプライマリケアと先端医療の連携がうまくできているなと実感しました。

・小児科
ジェファーソン大学では乳児健診や、咳をきたした小児のファーストタッチなど、日本の大学病院では行っていない業務もこなしていました。

また、実習ではM3の学生につきました。学生が実際に患者の親や本人に問診をとり診察を行っていました。iPadを使ってその動画を撮り、レジデントに見てもらいフィードバックをもらう、という教育体制をとっていました。とても熱心な教育が行われていて驚きました。

・JeffHOPE
JeffHOPEは、ホームレスや保険適応のない⼈々に対し医療を施すという趣旨で、学生たちが主体となって運営されているものです。学生やレジデントや家族にとっては、学ぶ場ともなり、その意義は⼤きいと思います。

上級生(M3、M4)と下級生(M1、M2)とでチームを作り、ホームレスなどの医療難民の方々の診察にあたっていました。
まず、下級生が診察をし、上級生がそのフォローをするといった形式で行っていました。“気管支拡張症と無気肺の違いは何か?”などの病態の説明なども上級生が下級生に丁寧に行っており、屋根瓦形式の教育が行われていました。

Volunteerismも素晴らしいですが、このような学生同士で勉強ができる環境も素晴らしいなと思いました。

・レクチャー
Dr. Joseph F. Majdanのレクチャーでは心臓の診察や臨床推論の基本、医療面接や医療倫理を学習しました。Dr. Joseph F. Majdanは循環器内科のドクターですが、長年学生の教育に専念してきたとおっしゃっており、彼の部屋の扉はいつでも空いており学生が困ったときには助けてあげられるような環境を作っているということでした。

医学というものは一般的に、臨床、研究、そして教育という三本柱で成り立っておりますが、日本の医学部はまだ医学教育の水準が全世界の基準に至っていないと問題視されています。私の大学のレクチャーのほとんどは最新のトピックを扱うアカデミック授業がとても多かったです。一方でこちらでは実際に現場に出るにあたってすぐに役立つような実践的な講義を受けることができ、新鮮でした。

Dr.Wayne Bond LauのVolunteerismのレクチャーでも先生の熱血さが伝わってきて、医者としての生き方に感動しました。

4. 応募書類と選考会について

野口医学研究所  学生向け臨床留学プログラム

・ スケジュール
応募書類締め切り:11月上旬あたり
選考会: 12月上旬の⼟⽇、会場は東京
※昨年度は⼟曜⽇にセミナー、⽇曜⽇に選考会(両⽇出席必須)

・ 参加者
北海道大学
防衛医大 2人
千葉大学 2人
熊本大学

・ 応募書類
Personal Statement (PS)
CV (Curriculum Vitae)
日本語の履歴書
TOEICなどの成績

・ 選考会
2016年 12月4日(日)に施行
午前:約2時間のグループディスカッション
午後:日本語の面接10分と英語の面接10分

・ 参考まで
米国の保険制度を事前に勉強しておくと良いと思いました。

予習のためのキーワード
ACA
Medicaid, Medicare
Diagnosis-related group
HIPAA
Blue Cross/Blue shield
Fee-for-service care
Managed care plan: HMO,PPO,POS
EMTALA

・ 留学に必要なもの
お⾦
英語力(特に医学英語)
医学的知識
積極性
抗体検査&ワクチン(インフルエンザ、百⽇咳、IGRAなどの)

5. 最後に

最後に、以下の絵画をご紹介いたします。フィラデルフィア美術館に展示されています。

右はトマス・エイキンズ(Thomas Eakins, 1844年7月25⽇ – 1916年6月25⽇)の作品で、エイキンズは、ジェファーソン・メディカル・カレッジで解剖学を学んだ画家・写真家・彫刻家です。この作品は、エイキンズが実際に⾒た⼿術を基に描かれたものです。手術はペンシルバニア病院で行われたものです。

若い男性の⼤腿⾻⾻髄炎の手術で、衛生的な⼿術環境が整う前の⼿術⾵景を今に伝える、と評されています。手術を大部屋で行い、それを後ろで学生や若手医師が見学しています。当時は全身麻酔も発達しておらず、患者さんに大量のアルコールを飲ませたり気絶させたりしていたそうです。

現在のように患者さんのベッドサイドや手術室へ行く、いわゆるBed Side Learningが始まる前の時代を反映しているといえます。
この作品は過去の医学教育をよく反映していると実感しました。