【海外留学報告】UAE大学(アラブ首長国連邦)千葉 馨

医学部医学科 千葉 馨
留学先:UAE大学(アラブ首長国連邦)
実習期間:2018年11月11日~11月22日(2週間)
留学の種類:北海道大学医学部医学科 正規派遣
留学時の年次:5年次

はじめに

私はこの度、UAE大学のTawam Hospitalにて約2週間(2018/11/13~22)、clinical electiveを経験しました。その経験をいくつかの項目に分けてまとめます。

1. そもそもなぜUAE大学で臨床実習をしたいと思ったのか

私は将来、日本という枠にとらわれず世界のあらゆる場所で、主に感染症や公衆衛生の分野で医療に貢献したいと考えています。よって高度に欧米化され、主に英語で回っているUAEの臨床現場での実習は、日本以外の医療を知り、体験し、将来の目標を実現するために必要なスキルを認識し、鍛錬することが出来る、私にとって大きなチャンスでした。

2.Department of Family Medicineでの実習

Family Medicineという概念自体、日本には馴染みのないものですが、Family Medicine科がいわゆる大学病院の診療科の一つとして存在することは私にとって驚きでした。主に慢性疾患の長期フォロー、薬剤のrefill、専門科では受け入れられない患者や専門科から転科してくる患者の診療などを担っていました。当科のドクター曰く、隙間産業的側面もある一方で、地域医療の維持、持続には欠かせないシステムとしての役割も大いにあるそうです。
実習では外来に入り指導医の横に座って外来患者の問診、身体診察、指導医とのディスカッションを行いました。患者の3割程度は、自分の症状を細かく説明出来るほどに英語を話すことができ、「What can I do for you today?」や、「Is there anything else I can aid for you?」と尋ねて患者の訴えを聞いたり、「I need to listen to your lungs.」などと声をかけながら聴診、視診したりしました。扱っている疾患はcommonなものが多く、これまでの日本での実習で経験した疾患、病態と重なるものが多かった印象ですが、症状や疾患名を英語で理解しディスカッションするのは、始めは訓練が必要だと感じました。ただ、症状を説明するときの言い回しや英語の医学用語に慣れて覚えていくと、徐々に理解度が増していきました。
私が経験した外来で特に多かった疾患はVitamin D deficiency、Obesity、Diabetes Mellitusでした。UAEはイスラム教徒が多く、アバヤという黒い布で目以外の体全体を覆っている女性が多く、彼女らは肌に日光を浴びることが極度に少ないため、また、屋外にいる時間が少ないためVitamin Dが欠乏傾向にありました。また、UAEは年中暑い気候のため、移動は車やタクシー、バスなど乗り物を利用するのが基本です。そのため歩く機会が少なく、それがObesityやDiabetes Mellitusの発生に寄与していると考えられます。
以上のように、Family Medicine科で学んだことは、医学英語や英語での基本的な医療面接、身体診察に加え、UAEで頻度の高い疾患の診断、治療などです。後者に関しては世界共通のガイドラインに準拠していることが多いため、UAEで学んだことを日本でも生かせるはずです。

3. Emergency Roomでの実習

最終日の数時間、Emergency Roomで実習する機会を得ました。RTA(Road Traffic Accident)、高K血症、不整脈などを見ることが出来ました。交通マナーがあまりよくないため交通事故で運ばれてくるケースが多く、緊急度と重症度が共に高い患者が多かった印象です。特に印象的だったのが、研修医が大声で指示をして看護師や他の医療関係者を統率していたことです。医学知識や臨床能力のみならず、医療チームをまとめるリーダーシップを兼ね備えた研修医が多いことに感心しました。

4. UAEの医療について

今回実習したTawam HospitalのDepartment of Family Medicineにて行われている医療の質は日本とほぼ変わらない印象でした。その理由として、世界共通のガイドラインや基準に則って診断、治療が行われていることや、医療機器や設備が日本とほぼ同等に充実していることがあります。また医療保険については、Emiratiは医療費負担がなく、Emirati以外の移民などは各自医療保険に加入しており、ほぼすべての人々が問題なく医療にアクセスできているようでした。

5. UAEという国について

UAEの人々の多くはムスリムです。よって女性の身体診察は女医によって行われたり、女性の病状説明を配偶者の男性が行ったり、ということが時々ありましたが、医療者側も対応に慣れており問題はありませんでした。
また実習中は私からの質問に丁寧に答えてくださったり、向こうから話しかけてくださったりと、見慣れないであろう日本から来た私を温かく受け入れ、接してくださる患者さんがほとんどでした。やはり英語を話せる、もしくは話せないけれど理解できる人が多いのも大きな要因だと思います。
医師や看護師、ポーター、事務員など医療関係者は私たちに非常に敬意を払い、フレンドリーに接してくださいました。私についてくださった先生方は、私に医療面接や身体診察を行うチャンスをたくさん与えてくださり、診断や治療に関しては一般的なことからUAEに特有なポイントまで幅広く教えてくださいました。

6. 今回のUAEでの臨床実習で得られたこと、気づき

疾患の診断、治療そのものは世界共通なことが多く、日本で学んでいたことを生かすことが出来ました。一方で、医療面接での聞き方や身体診察の手順など、文化や宗教などのバックグラウンドを十分に理解した上で行うべきものがたくさんあったのも事実です。医療は患者と医師の間の人間関係によって支えらえているのは確かであり、信頼される人間関係を築くには臨床能力のみならず患者を全人的にサポートすることが求められ、それには患者が生きてきた背景、例えば生活環境や文化、宗教や信条を深く理解することが必要不可欠です。私は将来、世界のあらゆる場所で医療に従事したいと考えているため、目の前の患者のバックグラウンドを把握し、診療につなげることを特に意識していきたいです。
また、UAEの医療現場では医師同士のコミュニケーションが十分にとられており、医師一人で抱え込まず、すぐに同僚と共有し助け合いながら診療している様子で、責任感が強いあまりに独力で何とかしようとする医師が多い印象の日本とは対照的でした。持続可能な医療のためにも、私自身、適切な時に仲間に頼れるよう心掛けたいと思いました。

7. 今後の課題

第一に、症状、病名などの医学英語をマスターし、医療面接や身体診察時の適切な英語での表現、言い回しを習得して次回の海外臨床実習に臨みたいです。
第二に、せっかくの海外臨床実習の機会を大いに生かし、自分から貪欲に学ぼうとする姿勢を実践したいです。国に関係なくどんな場所でも学ぼうとすればするほど先生方は親切に教えてくださることがほとんどなので、次回はより積極的に、自ら学びに行く姿勢を見せていきたいです。
加えて、これから世界のたくさんの場所でclinical electiveを経験するので、その場所の歴史、文化、宗教、慣習などがその場所の医療、人々の健康にどのような影響を及ぼしているのかを考え、整理したいです。そして将来国境を越えて医師として活躍するにはどんな心構え、姿勢が必要なのか、どのようにしてその場その場に適応し、良い医療が提供できるようになるのかを考察したいです。

8. 最後に

UAEでの臨床実習を通して、自分が海外の医療現場で通用する点、まだまだ勉強が必要な点が浮き彫りになったと同時に、遥々異国の地で、バックグラウンドが大きく異なる患者に対して良い医療を提供するには何が必要かを考えるきっかけになりました。これらは私の今後のキャリアに大きな影響を持つだろうと考えています。
今回のUAE派遣を実現するにあたりサポートして下さった、北海道大学医学部医学科教務の関係者様、医学教育・国際交流推進センターの先生方はじめ多くの方々に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。