【海外留学報告】UAE大学(アラブ首長国連邦)山川 光哉

医学部医学科 山川 光哉
留学先:UAE大学(アラブ首長国連邦)
実習期間:2018年11月11日~11月22日(2週間)
留学の種類:北海道大学医学部医学科 正規派遣
留学時の年次:5年次

1. United Arab Emirates大学について

今回、私達の受け入れ先となったUAE大学はアラブ首長国連邦国内で唯一の国立大学であり、国内に8校ある医学部を擁する大学の1つでもある。国内第3の都市であるアル・アインに位置する。アル・アインはアブダビ首長国に属し、ドバイからは約140km、アブダビからは約150km離れたオマーンとの国境に接する内陸のオアシス都市である。

UAE大学メインキャンパスにある Crescent building

実習を行ったTawam病院  敷地内にこのような建物が複数ある

 

2. 実習について

実習はUAE大学医学部キャンパスの隣に位置するTawam病院で行われる。Tawam病院は1000床以上ある、大学病院のような機能を持つ病院である。私は、外科(General surgery)が受け入れ先で2週間実習を行った。実習初日に責任者に色々な分野の手術を見たいと伝えたところ、各科の医師を紹介していただき、日替わりで違う科の手術を見ることができた。2週間で、消化器外科・肥満外科・小児外科・胸部外科・整形外科・耳鼻咽喉科の手術を見ることができた。
実習のスケジュールは朝8時に病院へ行き、手術の予定表を確認し、見たい手術室を見るという流れだった。どの科の先生も日本から来た医学生であることと、この手術が見たいということを伝えると、快く患者や手術について説明していただけた。耳鼻咽喉科と小児外科、整形外科では手洗いをして術野に入り、縫合・鉤引き・糸切りなどをやる機会も与えられた。また、麻酔科医や看護師も親切に接してくださり、手術の待ち時間などに手持ち無沙汰にしていると麻酔や手術室の準備について教えていただけた。
UAEでは肥満の人が非常に多く、肥満外科(Bariatric Surgery)として週に何例も胃スリーブ術や胃バイパス術が行われていたことが印象的だった。ある看護師いわく、エミラティ(UAEの人)は近所でも移動に車を使い、ご飯も出前ばかりのLazyな民族だから肥満が多いんだとか。その他は、甲状腺摘除術・小児の割礼・小児鼠径ヘルニア・胃瘻造設術・半月板切除術・人工股関節置換術・大腿骨骨折の骨接合術・胸腔鏡下胸腺腫摘除術などを見学した。ちなみにこの病院では心臓血管外科の手術はほとんど行われていないらしい。

3. 生活について

● 言語

アラビア語が公用語であるが、英語のみで生活できる。労働者などはインドやパキスタン、フィリピン、アフリカから来た人々が多く、基本的に英語で会話できるが、聞き取りにくいこともある。病院ではフィリピン人の看護師が多く、手術室で交わされる言葉は全て英語だった。

● お金

物価は食品に関しては日本と大きく違わない。アル・アインでは飲料水は500mlのペットボトル1本で約1Dh(日本円で約30円)と安価である。
通貨の単位はUAEディルハムでAEDやDhと書く。100Dh、50Dh、20Dh、10Dh、5Dhの紙幣と1Dh、50Fills(0.5Dh)、25Fills(0.25Dh)のコインがある。近年導入された消費税のせいで端数を払えないことがある(例えば8.4Dh)が、その辺は適当に切り上げたり切り捨てたりして支払いを行っている。

● 交通

ドバイ空港からアル・アインまでは、大学の職員がメルセデス・ベンツのSクラスで送迎してくれた。料金は片道350Dhとそれなりに高い(タクシーだと200~250Dh程度)が、それぞれ違う場所で行われる寮のお金の支払いと入寮の手続きに同行してくれたので非常に助かった。バスを利用すればドバイ市内のアル・グバイババスターミナルからAl Ghazalという会社のバスで、アル・アイン市内のバスターミナルまで20Dhで行ける。
アル・アイン市内では、公共バス(どこまで乗っても一律2Dh)、タクシー(初乗り5Dh)が利用できる。寮の前のバス停から病院へはバスで5~10分程度で到着する。病院から寮に帰る際は、寮の前のバス停で降りて片道3車線で制限時速100kmの道路を横断するか、少し離れた徒歩10分位のところにあるバス停を使う必要があった。
バスに乗る際には、hafilatカード(T-Purse)という電子マネーを使う必要がある。バスターミナルや街の中心部のバス停、Tawam病院のバス停に自動販売機があり、カードの購入やチャージができる。2018年9月から導入されたこともあり、現地の人でも自動販売機の使い方がわかっていない人が多いようであった。また、バスの行き先表示板が間違っていることがある。特に病院のバス停では、上りと下りのバスが同じバス停に停まるため、運転手に行き先を確認することや、バスの運行会社が出しているDarbというアプリを利用して、次に来るバスの行き先を確認することが大切である。
全てのタクシーはメーターが表示されており、安心して乗ることできる(初乗り5Dh、1kmあたり1.82Dh)。また、街中や病院、寮の近くでは交通量が多いので、すぐにタクシーを見つけることができる。タクシーで私達の宿泊したTawam Male Hostelに帰るときは、隣にあるAbu Dhabi Universityと言うとわかってもらえた。

hafilat カードが導入され、紙チケットは廃止

Route information presently disrupted バスの行き先表示板は信用するな

● 寮生活

私達は、大学の学生寮であるTawam Male Hostelに宿泊した。1泊あたり50Dh。ちなみにクレジットカード払いのみ。部屋には水道・冷蔵庫・シャワー・トイレ・エアコン・トイレットペーパーがある。ベッドと枕はあるが、寝具がないため市内のモール(Al Ain Mall)で買い揃えた(古くて埃っぽい毛布やシーツなら部屋にある)。シーツとブランケットと枕カバーあわせて75Dh程度で購入できた。また、アメニティやドライヤーも持参が必要。共用部にはお湯も出るウォーターサーバーと洗濯機・乾燥機がある。
病院から徒歩圏内にある病院の職員寮も選択できた。寮費は1ヶ月あたり3000Dhらしい。

Tawam Male Hostelの部屋 エアコンが壊れていたり、 漏電して停電したりしたが、対応はすぐにしてくれる

寮にある売店

● 食事

寮の敷地内には、レストランがあり、朝食5Dh、昼食30Dh、夕食30Dhで利用できる(朝は7時から、夜は21時半まで)。また、売店もあり、飲み物・お菓子・パン・洗剤などのちょっとしたものはここで購入できる。
24時間営業の病院の食堂では20Dhあればお腹いっぱいになる。定食のようなものから、バイキング、サラダバー、目の前で焼いてくれるホットサンドやクレープ、生搾りジュースなど色々なものがある。安くておいしいのでとても重宝していた。

寮の食堂での夕食  ビュッフェスタイル、味は…

病院の食堂での昼食 ホットサンドと野菜スープとスイーツ

● 通信

連絡手段として携帯電話が必要だと思う。私は2週間で100DhのプリペイドSIMカードを購入し、普段日本で使用しているスマートフォンをSIMロック解除して利用した。Etisalatとduという会社が2大通信会社であり、空港やモールでプリペイドのSIMカードを購入できる。利用できるデータ量が少ないのでWi-Fiを上手く活用すると良い。
病院ではMarhabaというSMSを利用して認証するフリーWi-Fiが利用できる。
寮や大学の敷地内では、UAEU-SkynetというWi-Fiがあるが、アカウントが利用できるまでの大学の対応が遅いので注意が必要。日本にいるうちに問い合わせておいたほうが良いと思った。結局私達は寮の管理や清掃をしている人のIDとパスワードを個人的に教えてもらって利用していた。寮の部屋に有線LANが来ており、ケーブルがあればIDとパスワードがなくても利用できた。

● 服装

病院では半袖ポロシャツ、チノパン、スニーカーと病院から貸与される白衣を着ていた。手術室に入るときは術衣を貸してもらえる。
日常生活では、イスラム教の国なので半袖短パンは禁忌だと思っていたが、現地の人の姿を見ると意外にもそういったことはなかった。ドバイと比較して保守的なアル・アインでも半袖短パンで外出しても特に問題はないと思う。ただしモスクなどに行くときは長ズボンが必須。11月後半になると日中は30度を超えることもあるが、夜は肌寒いので上に羽織る長袖シャツなどがあるといいと思う。

4. 渡航までの手続き


6月下旬
UAE派遣決定、SEHAのweb上のフォームに必要事項の入力と書類提出を求められる(推薦書2通とletter of good standing、履歴書、成績証明書)
※SEHAとはアブダビ首長国の厚生労働省のようなところ
7月下旬
推薦書2通とletter of good standingに先生方のサインを頂くために北大教務に提出
9月上旬
推薦書などにサインをして頂き返却される(本当は提出3週間後のはず)
9月中旬
ようやくweb上のフォームに必要事項の入力、書類の提出をする
提出後、追加で病院に提出する書類が送られてくる
このころ実習する科を決めるメールも送る
9月下旬
当初、11月末から12月上旬にかけて2週間の予定だった日程が、受け入れ先の病院の都合で急遽2週間前倒しになる
10月上旬
正式に実習の許可がUAE側から下りる
航空券の購入とUAE大学の担当者と宿泊の調整を行う
11月上旬
北大教務に海外渡航にあたって必要な書類を提出する
11月中旬
コア科実習第3クールの前半2週間を利用してUAEに渡航

● 保険・予防接種
特に病院から求められたものはなかった。保険は一般的な旅行保険を利用し、予防接種は外務省で推奨されているA型肝炎と破傷風を行った。

● 現地で役に立つもの
□ 洗濯ヒモ・ハンガー:洗濯物を干すところがない、乾燥しているのですぐ乾く
□ 日本の洗濯洗剤:日本のやつが一番いいと思う
□ Darb(アプリ):アブダビ首長国department of transportのバス情報アプリ
□ WhatsApp(アプリ):現地ではこれかFacebookのメッセンジャーを使っている
□ 地図アプリ:何でもいいけどオフラインで使えるようにしておこう

● Assessment form:日本で印刷していき、指導医に書いてもらい北大に提出する

5. 感想

2週間UAEに滞在して、多くの日本との共通点・相違点を発見できた。医療行為や医療施設の面では、基本的には日本とさほど変わらない医療が行われていたが、細かいところでは縫合の方法が違うことや肥満外科の手術が多いこと、手洗いの水道やドアが自動ではないこと、VIP専用の病棟があること、荷物を運ぶポーターがいることなどが挙げられる。ある看護師に日本と違うと思う部分は何かあるかと聞かれたので、水道やドアのことを言うと、日本は何でもオートマチックだからお前の腕はそんなに細いんだろと冗談を言われた。
医療システムの違いとしては、アブダビ首長国の中では9つの大きな病院があるそうだが、そのすべての病院で同じ医療情報システムを使っており、カルテの共有がされていた。他の首長国(例えばドバイなど)から患者が来ると情報がないため、わざわざ問い合わせなければならず面倒だと言っていた。また、患者が手術室に入るときにサインインといって本人確認と手術内容の確認をすることが徹底されていた。
文化的な違いに起因する違いとしては、ヒジャブ(女性が頭に被る黒い布)を被ったまま手術室に入ってくる患者がいたことや、医師でも普段はヒジャブを被っているが手術室では脱いでいる人がいる一方で、手術室でもヒジャブを被っていて布の上からキャップをしている人など、人によって異なることが印象的だった。顔面全体が隠れるヒジャブをしている患者は本人確認のためにIDのチェックが特に重要であると教えてもらった。また、手術室の前には、患者のIDと手術の進捗状況を示すモニターがあり、何時何分に麻酔が開始したといったように表示されるようになっている。それを患者の家族全員で見て待っていた。また、大学はfemale campusとして女性専用のキャンパスが敷地内に設けられていた。図書館でも入り口から入って左側が男性専用エリア、右側が女性専用エリアとわけられていた。

海外経験がほとんどない自分にとっても、色々な面で安心して過ごすことができる国であったということが印象的だった。インド・パキスタン・フィリピン・アフリカ各国などの多くの国から労働者が集まってきている多国籍・多文化な国であるため、ほとんどの人が英語でコミュニケーションを取ることができ、拙い英語を話す自分にも親切に接してくれる人ばかりだった。Tawam病院にはバーレーンやシリア、スーダン、スペインなど多くの国からレジデントが来ていた。また、日本からは、大阪大学と藤田保健衛生大学の学生の受け入れをしているそうだ。また、治安も非常によく、不安を感じるような場面は皆無だった。
病院での実習中は、手術室の医師・看護師・警備員など全ての職種の人が歓迎して話しかけてくれた。病棟を見学していたときにも、たまたま通った初めて会う医師が何か質問したいことがあるならなんでも聞いてくれ、と言ってくれるくらい親切に接してくれる人ばかりであった。そのような恵まれた環境であったため、充実した実習を行うことができた。

最後に今回の渡航にあたって、北海道大学、UAE大学、Tawam病院の教職員の皆様、一緒に渡航した2人の友人には大変お世話になりました。皆様のおかげで大変貴重な経験をすることができました。そして、この報告書が来年以降UAEに向かう皆さんのお役に立てばと思います。(終)